臨時報告書の提出事由として、主要株主の異動があります(開示府令19条2項4号)。
主要株主とは、自己又は他人の名義をもって総株主等の議決権の10%以上の議決権を有している株主をいいます(金商法163条1項)。
この主要株主は会社法上の帳簿閲覧権(会社法433条)を持ち、会社の業務執行に大きな影響力を有するがゆえに、その異動を適時に開示する必要があるとされています。
この主要株主はあくまで会社に対する影響力を背景にするので、実質の株式の所有ベースで考えます。
他方、大量保有報告制度においては、株式の実質所有者でなくとも、次に掲げる者にも保有者として報告義務があります。
①金銭の信託契約その他の契約又は法律の規定に基づき、株券等の発行者の株主とし ての議決権その他の権利を行使することができる権限又は当該議決権の行使について指図を行うことができる権限を有する者であつて、当該発行者の事業活動を支配する目的を有する者
②投資一任契約その他の契約又は法律の規定に基づき、株券等に投資をするのに必要な権限を有する者
そして、大量保有報告書の写しは、大量保有者から発行者に送付されます(金商法27条の27)。
以上のことを前提とすると、困った事態が生じる可能性があります。
すなわち、ある日突然、発行者のもとに①又は②の者から大量保有報告書の写し(10%以上の議決権の取得をした場合に限られる)が送付されてきた場合に、発行者はだれを主要株主の異動として臨時報告書を提出すればよいかという問題です。
①②が特定のファンドから権限を委任されている場合、実際の議決権の取得者は、ファンドの後ろにいる個々の出資者である可能性があります。
本来、実質所有者が出資者である場合には、その出資者も大量保有報告書を提出義務があるのですが、立法管轄の問題や、単純に脱法として大量保有報告書が提出されていない可能性があります。
このとき、発行者としては①②の者に問い合わせて議決権の実質所有者は誰かを確認するしか方法はありませんが、①②の者が出資者の名前を明かすことは期待できないでしょう。
その場合には、発行者としては、出資者からの大量保有報告書が提出されていないことをもって、(1)主要株主はいないと判断して臨時報告書を提出しないか、または、(2)①②の者を主要株主として臨時報告書を提出するか、という対応が考えられます。
(1)であれば臨時報告書の不提出のリスクがありますし、(2)だと虚偽記載のリスクがあります。
(1)(2)はともに刑事罰の対象ですが、刑事罰の観点から考えた場合、発行者として最善の方法を尽くしておれば、故意責任を問われる可能性は低いと考えられます。
ただ、先日の金融商品取引法の改正により、臨時報告書にも課徴金が課されることとなっています(まだ未施行)。課徴金については一般に故意過失は問わないとされていることから、課徴金のリスクは発行者の頭を悩ませる問題となるでしょう。(もっとも、このような場合、当局が課徴金納付命令を出す可能性は低いと思われますが。)
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