独占禁止法

排他条件付取引

白石忠志先生が、法学教室で「独占禁止法の勘所」という連載をしています。この連載は、6頁のスペースの中に3つほどの判例を取り上げ、それぞれ白石先生がコメントをするというものです。コンパクトながら、なかなか示唆にとんだものとなっているのですが、なんせ難しい。排他条件付取引や市場画定などの専門用語が飛び交っています。そのため、初心者には難解なものとなっています。

ちなみに、白石先生は、教科書なんかも出していますが、これも薄いわりには難解です。コンパクトな記述の中にバンバン白石分析が入っています。百選なんかの解説を読んでも、他の先生の解説と比べて、行と行とのスペースが広かったり(苦笑)、これが白石先生の文体なのでしょうね。

そんな、「独占禁止法の勘所」も8回の連載を数えるわけですが、今回のメインテーマは「排他条件付取引」でした。排他条件付取引は、不公正な取引方法の一つですが、他のものと比べて、重要度は高い違反類型です。そこで、今回は、「独占禁止法の勘所」を素材に、排他条件付取引の整理を行ってみたいと思います(以下の記述は、「独占禁止法(2版)」・金井・川濱・泉水・291頁以下を参照しています)。

 排他条件付取引とは、不当に、相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引し、競争者の取引の機会を減少させるおそれがあることをいいます(一般指定11項)。
 ここでも、行為要件と公正競争阻害性に分解して、検討することが必要です。

第1 行為要件
 「相手方が競争者と取引しないことを条件として当該相手方と取引すること」

 行為者が売り手も場合も、買い手の場合も含まれます。前者は、排他供給取引といい、特約店や専売店などです。他方、後者は、排他的受け入れ取引といい、一手販売契約や、輸入総代理店契約などが具体例です。

 これらの取引を「条件」としてなすことが必要です。「条件として」の意義は、2条9項4号の「拘束」と同義であると解されており、必ずしもその取引条件に従うことが契約上の義務として定められていることを要せず、それに従わない場合に経済上なんらかの不利益を伴うことにより現実にその実効性が確保されておれば足りるとされています。具体的には、合意やリベート、出荷停止、出荷量の削減などにより、実効性の確保がなされておれば、「拘束」「条件として」にあたるとされます。

第2 公正競争阻害性
 「不当に」

 排他条件付取引は、公正競争阻害性がある場合に違法となります。
 そして、判例では、「公正競争阻害性の有無は、結局のところ、行為者のする排他条件付取引によって行為者と競争関係にある事業者の利用しうる流通経路がどの程度閉鎖的な状態におかれるかによって決定されるべきであり、一般に一定の取引の分野において有力な立場にある事業者がその製品について販売事業者の相当数の者との間で排他条件付取引を行う場合には、その取引には原則として公正競争阻害性が認められる」とされています。

 また、実務上、一定の指針を示す流通・取引慣行ガイドラインも、「市場における有力な事業者」が排他条件付取引を行い、これによって「競争者の取引の機会が減少し、他に代わりうる取引先を容易に見出すことができなくなるおそれがある場合」に違法となるとしています。
 ここに言う「市場における有力な事業者」は、シェアが10%以上またはその順位が上位3位以内であることが一応の基準となります。
 そして、「競争者の取引の機会が減少し、他に代わりうる取引先を容易に見出すことができなくなるおそれがある場合」の判断は、①対象商品の市場全体の状況(『市場集中度』、商品特性、製品差別化の程度、流通経路、新規参入の難易性等)、②後者の市場における地位(『シェア』、順位、ブランド力等)、③当該行為の相手方の数および市場における地位、④当該行為が行為の相手方の事業活動に及ぼす影響(行為の程度、態様等)を考慮して判断されるものとされています。

 以上のような判断基準に照らせば、行為者の「シェア」は、有力な事業者の判断、『』でくくった事実の判断にとって、重要な事情であるものといえます。そして、シェアは、市場を画定することなしには、行えません。そのため、排他条件付取引においては、不当な取引制限のように、「市場画定」がなされます。

 ただ、ここで注意しなければならないのは、「シェア」が、不当な取引制限の場合と違い、重要な間接事実でしかない点です。 
 不当な取引制限は、市場支配力を測るものとして、シェアは重要な事情です。
 これに対して、排他条件付取引においては、本命はあくまで「行為者のする排他条件付取引によって行為者と競争関係にある事業者の利用しうる流通経路がどの程度閉鎖的な状態におかれるか」であり、行為者のシェアは、これを測る重要な間接事実にすぎないからです(「独占禁止法講義(3版)」・白石・101102頁)。

 もっとも、排他条件付取引が不公正な取引方法の限度を超え、私的独占の域までたっした場合には、また、シェアの重要性が高まるものと思われます。というのも、私的独占においては、「排除」とは別に競争の実質的制限の有無が問われるからです。

 最後に、「すでに各販売業者が事実上特定の事業者の系列に組み込まれており、その事業者の製品だけしか取り扱わないという事態になっているなど特段の事情が認められることをもって、公正競争阻害性を否定することはできないものと考えられます。なぜなら、並行的に系列化がされていたとしても、排他条件付取引を行うことは、新規参入を困難化するからです(流通・取引ガイドライン第2部第222)注5参照)

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不当廉売2

不当廉売の具体的要件について検討します。

 不当廉売は、独禁法の規制する不公正な取引方法(29項)の中の一つです(なお、不公正な取引方法に加えて、私的独占、不当な取引制限、企業結合の規制を、4本柱といいます)。そして、不公正な取引方法は、(ⅰ)行為要件と(ⅱ)公正競争阻害性からなっています。両者の要件がそろわなければ、独占禁止法違反とはなりません。もっとも、公正競争阻害性は、行為類型によっては、推定される場合もあります。具体的には、「正当な理由がないのに」などとされている場合には、行為要件に該当すれば、公正競争阻害性が推定されるものとされています。
(ⅱ)行為要件と(ⅱ)競争阻害性との関係は、刑法を勉強したことのある人なら、構成要件該当性と違法性との関係を彷彿とさせます。刑法においては、構成要件に該当すれば、違法性が推定されるからです。しかし、(ⅱ)に該当しても、(ⅱ)を推定しない場合もあり、また、行為要件と反競争要件との関係は、相互補充しあう場合もあることから(私的独占について「独占禁止法(2版)」金井・川濱・泉水・138頁)、独立の要件と考えるのが相当であり、刑法的に思考するのは危険であるものと思われます。

 さて、不当廉売に話を戻しますと、不当廉売とは、以下のものを言います(一般指定6項)。
「①正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給し、②その他不当に商品又は役務を低い対価で供給し、③他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあること。」

 ①~③の関係は、①+③が原則違法類型。②+③がその他類型と考えられています。これは、法令用語の用法によった解釈ですが、①and/or②+③と考える見解もあります(「独禁法事例の勘所(7回)」白石忠志・法学教室313号・97頁)。ちなみに、私自身は、規制法は明確にと考えているので、前者の見解が妥当であると思っています。

1 さて、具体的な要件です。まず、①+③型について。
(1)行為要件
 行為要件で特筆すべきは、「供給に要する費用を著しく下回る対価」とはいかなるものかという点です。
 価格競争自体は、推奨されるべきものであるのは、先回述べた通りであり、結局は、「不当な」廉売が規制されることになります。この不当性が、適法な価格競争と独占禁止法違反の不当廉売を分けることになり、事業者にとって明暗を分ける問題となるのですから、不当性については、明確な基準が必要となるものといえます。
不当性としては、採算を度外視したことが根拠として持ち出されることがありますが(前傾金井・川濱・泉水・256頁)、この採算を度外視したというのも抽象的な概念であり、結局は何らかの費用基準が必要とされることになります。具体的に①においては、平均可変費用(可変費用とは、原材料費や仕入費用など、生産すればするだけ、余計にかかる費用のことをいう)が原則として妥当し、小売では、仕入価格を下回るかが基準とされています(前傾白石・97頁)。
また、廉売行為は、「継続して」、すなわち、相当期間にわたって繰り返し行われるか、その蓋然性があることが必要であるとされます。
 
(2)公正競争阻害性
 ①+③型の場合、公正競争阻害性が推定されます。ただ、廉売が競争上正当な目的を持っていたり、競争に与える影響が乏しく、公正な競争を阻害する虞がない場合に、「正当な理由」が認められるとされます。この正当な理由は(a)商品の市場性が失われたため仕入価格を支払っても販売する必要があるとき、(b)市場の需給関係に対応しているにすぎない場合など、幅広い事情が考慮されます(最判平成元年1214日も参照)。

2 次に、②+③型について。
(1)行為要件
 ①+③型と同様に、費用基準が問題となりますが、②+③型については、平均総費用(総費用は、可変費用に固定費用を含んだもの)が基準とされています。

(2)公正競争阻害性
 公正競争阻害性は推定されず、廉売の状況から、他の事業者の排除等を意図したものであるか否かの実質的判断が行われることになります(なお、②については、①とは違い、追加的な要件が必要であると主張する見解もあるようです)。

3 埋め合わせ要件について。
 米国では、廉売後に形成・維持された市場支配力により廉売による損失を穴埋めすることを不当廉売の要件としています。これに対して、わが国では、埋め合わせ可能な場合とは、一定の取引分野における競争を実質的に制限するかの基準であるとして、問題とはならないとする見解が有力です(前傾・金井・川濱・泉水・266頁)。もっとも、正当理由として、事後に反競争的な効果が発生しそうにない事情のあることを、正当な理由として考慮する見解もあるようです。私自身は、正当な理由には幅広い事情を取り込めること、および、正当な理由は規制を回避するベクトルを有するものであるから、行為類型ほど厳密な運用は必要とはされないこと、さらに、独禁法の規制は、結局は反競争的な行為を排除するためのものであり、反競争的な効果がおよそ発生しそうにない場合には、規制すべきでないことから、後者の見解が妥当であると思います。


 以上、不当廉売について、長々と述べてきましたが、可変費用や総費用など、聞きなれない言葉が出てくるのも独占禁止法の魅力です。経済的な分析や会計、原価計算の知識など、幅広い知識を駆使して、公正かつ自由な競争の促進を図る、そんな独占禁止法の魅力の一端が、不当廉売規制に表れているように思います。

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不当廉売

あまりなじみのないかもしれない独占禁止法の不当廉売について取り上げてみましょう。

 独禁法は、カルテルや不当廉売などを規制することによって、公正かつ自由な競争を促進し、国民経済の民主的で健全な発達を促進することを目的とする法律です。アメリカなどでは、FTC(連邦取引委員会)の活発的な活動から、独禁法の適用事例は多く、事務所の看板として、「独占禁止法」をあげるアメリカ弁護士が多いとのことです。
 日本においても、独占禁止法を運用、適用する公正取引委員会が、カルテルの摘発を活発に行うなど、独占禁止法のニュースが多く聞かれるようになりました。また、私人間においても、クロネコヤマトが、ユーパックに対して不当廉売ではないかと主張する事件があったり、ライブドアVSニッポン放送において、取引拒絶の問題が取り上げられたりなど、独占禁止法が使用される事例は、確実に増えてきているものといえます。先日、友人の法務部員に聞いたところ、大きなメーカーなどでは、独占禁止法やそれに関連する下請法の知識は、コンプライアンスの観点から、もはや必須の知識となっているとのことでした。

 そこで、今回取り上げるのが、独占禁止法において規制されている行為の一つである「不当廉売」です。不当廉売とは、簡単にいえば、物を安く売りすぎる行為です。物の安売りは多くなされており、なぜ、安く売りすぎることが法律違反になるのか疑問をもたれる方もいらっしゃるでしょう。それでは、以下の例はどうでしょうか。独占禁止法は、以下のような思考過程により、不当廉売を規制しています。

バナナ屋1
「うちの地域では、バナナ屋が2軒あるけど、バナナ屋2の親父とは馬が合わないので、競争になっちまって、ついつい安い値段で売っちまうんだよな~。せいぜいバナナ1本100円(仕入価格50円)で売れたらいいとこだ。なんとか、もっと高く売りたいもんだ・・・」

バナナ屋2
「うちのバナナは日本一。品質も値段も日本一。でも、ついつい趣味の博打で大損こいて、貯金をすっかり使いきってしまった。100円で売っているバナナも仕入価格は80円だし、人件費や店舗の家賃も考えると、トントンな状態だな~。まあ、暮らしてはいけるけど。それにしても、ディープインパクトに350万円も賭けるんじゃなかったな~(泣)」

バナナ屋1
「隣りのバナナ屋2の親父は、競馬で大損こいたらしい。貯金も底をついて、経営が苦しいらしい。しめしめ、今、損を覚悟でバナナを安く売って、バナナ屋2と赤字覚悟の価格競争をすれば、バナナ屋2は潰れるんじゃないか?そうしたら、この地域のバナナ屋はうち1軒だけになるから、高い値段でバナナを売ることができるんじゃないか?そしたら、うちは大儲け間違いなし。よーし!バナナ1本1円。バナナの叩き売りだ~!」

 そうして、バナナ屋1はバナナを1本1円で売り、バナナ屋2もつられて仕入価格ぎりぎりの80円でバナナを売るものの、貯金が底をついていたためバナナ屋2は潰れてしまいました。その後、首尾よくバナナ屋1はバナナを1本150円で売れるようになったそうです。めでたし、めでたし・・・・・。なお、風の噂では、地域の住民は、バナナを食べたいために、しぶしぶ150円でバナナを買っているそうですが・・・。


 さあ、この例についてどう思われますか。なんとなくバナナ屋1の親父が悪い奴であることは、共通の理解であると思います。これが、どう法律上、説明されるのか、それが問題です。
独占禁止法は、以下のような思考過程により不当廉売を説明します。

「価格競争は、独占禁止法が促進すべき公正かつ自由な競争の根幹にかかわるものであり、本来は奨励されるべきものである。そして、通常の価格競争により自然に形成された市場支配力は、非難されるべきものとはいえない。むしろ、価格競争を回避する行為を抑制することの方が、独占禁止法の優先課題である。
もっとも、安売り競争が、競争者を駆逐したり新規参入を妨害するために利用し、市場支配力の形成・維持を図る場合、または、カルテルを破った業者に対する報復的な意味で利用される場合には、安売り競争も公正かつ自由な競争を阻害する危険がある。そこで、「不当な」安売り競争は独占禁止法によって規制される必要がある。」

 これを前述の例で言えば、バナナ屋1が仕入価格を大幅に割るような不当な価格によりバナナを売り、バナナ屋2を駆逐することによって、自由に価格を決定できる地位(市場支配力)を得ることができたことが、独占禁止法違反とされることになります(なお、市場支配力の形成の要否については、埋め合わせ要件を巡る議論があるので注意。「独禁法講義(3版)」・白石忠志・44頁に記載があります)。

 独占禁止法は、インサイダーなどと同様に、なぜ悪い行為であるかのイメージを持ちにくい法律です。ただ、意図的に競争相手を追い出して、自由に価格を設定して、大儲けする、という行為が公正かつ自由な競争を害することは理解できます。そして、公正かつ自由な競争の阻害が、経済秩序を乱し、ひいては、私たちの生活にも不利益を与えることもイメージが持てるのではないでしょうか。

 意外に長い記載になってしまったので、不当廉売の具体的な要件については、次回に検討しようと思います。

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