保険法

約款と立証責任

保険法が先日の5月30日に成立しました。

告知義務を損害の発生に関する重要な事項のうち保険者が告知を求めたものに限定する規定など、保険契約者保護を重視した法律となっています。

新法はいま勉強中なので、また随意ブログでご紹介できればと思います。

さて、保険法成立を記念してではないですが、前から保険法の分野で気になっていたことがあります。

それは、約款と立証責任の関係です。

立証責任(証明責任ともいいます)とは、訴訟において裁判所がある事実(主要事実に限る。)の存否につきそのいずれとも確定できない場合に、その結果として、判決において、その事実を要件とする自己に有利な法律効果の発生又は不発生が認められないことになる当事者の一方の危険又は不利益のことをいいます(中野他編「新民事訴訟法講義」357頁以下)。

立証責任の分配については、法律要件分類説が通説とされています。この説いわく、各当事者は、自己に有利な法律効果の発生を定める法条の要件事実について証明責任を負うとされています。

ここにいう法条と約款の関係が問題です。

法条を一般的に解釈すると、法律・政令・省令などを指すのでしょう。当事者の契約で立証責任を転換する訴訟契約が果たして認められるのかは難しいでしょう。

他方、保険法の分野では、約款の規定振りによって、当事者間の立証責任の所在が異なってくる例があります。例えば、保険料不払いや偶然性の立証責任などです。

約款による立証責任の分配は普通保険約款の変更が認可事項であるからかもしれません。

しかし、約款はあくまで当事者間の契約であることには変わりなく、これと立証責任との関係をどのように考えるのかは詰められていないように思われます。

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開示と告知

保険法において、給付反対給付均等の原則というのがあります。

これは、『保険料=保険金×保険金が支払われる確率』 という関係が成り立つことをいいます。

この関係が成り立つ前提として保険者が保険加入者の危険に対する情報を適切に入手しておく必要があります。

そのため保険加入者には、加入者の年齢、病歴、健康状態などを告知する義務が課されています。この義務のことを告知義務といいます。

告知義務は保険者と保険加入者との情報の格差を是正する方法として金商法上の開示規制と類似性を有します。

ただ、告知義務と開示規制との間で決定的に違うのは、告知義務はあくまで保険者と保険加入者との二当事者間の問題であるのに対して、開示規制は発行者と多くの投資家との間の一対多数者間の問題であることです。

このような関係の違いから、告知義務の対象である病歴や健康状態などのかなり踏み込んだ情報の提供が認められることになります。

このことを開示規制からみれば、一定の突っ込んだ情報の提供は情報の提供者と受領者との間に密接な関係が必要であることを示唆しているように思われます。

つまり、企業買収の局面において、一定の経営計画などを相互に情報提供することは、かなり開示規制からすると説明できない、ないしは説明しずらいものであると考えられます。

買収者、被買収者の情報の開示という言葉をよく聞きますが、開示と買収者、被買収者間の情報の交換は厳密には異なる概念であると思います。

両者が重なって見えるのは、企業の支配権を奪い合うという買収者、被買収者間の密接な関係と、支配権に対する投資家の影響という二つの関係が交錯しているからではないでしょうか。

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保険というスキーム

保険の話を久々に。

保険法の制定が現実化しそうです。ただ、約款を中心とした複雑ないまの構造が大きくかわることはないように思われます。

そもそも保険とは同様の危険にさらされた多数の経済主体が金銭を拠出して共同の資金蓄積を形成し、各経済主体が現に経済的不利益を被ったときにそこから支払を受けるという形で不測の事態に備える制度をいいます(山下他編著「保険法(第2版)2頁)。

制度とはすなわちスキームであることを意味します。つまり、保険は何か別のものによって代替される可能性があり、また逆に保険が他の制度に代替する可能性もあります。

前者の例としては「オプション」があります。両者は結局はリスクをヘッジする点では類似性を有するのであり、当然、代替される可能性があります。

次に後者の例としては、保険業法や公認会計士法の供託金の代替があります。

これは、保険が一定の保険事故を基に一定の金銭が支払われることに基づく代替です。

しかし、保険というスキームには故意免責という限界があり、完全な代替が認められるかは各法律によります。

また、供託金が被害者保護の観点から積まれるものである場合、保険約款上、直接請求権が認められているかも問題になります。約款上、特別に直接請求権が規定されていない場合には直接請求を否定するのが多数説であるようなので、これは保険業法とも絡む問題です。

さらに、一定の目的に沿う金銭の準備を保険によるのか供託によるのかオプションによるのかは会計処理上も異なってきそうです。

このように保険のスキームとしての性質が法律上も徐々に認められてきているのは事実です。保険がスキームであることを前提にどのようにスキームを構築するかは法律家の手腕が問われます。

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被保険利益

保険は、生活において生じる各種のリスクを回避する手段です。その種類は、損害保険、生命保険、責任保険、傷害保険などなど、たくさんのものがありますが、保険について定める商法629条以下は、保険を大きく、損害保険と生命保険に分けて規定しています。

 今回とりあげるのは、損害保険です。損害保険契約とは、当事者の一方が偶然なる一定の事故によって生ずることあるべき損害を填補することを約し相手方が之にその報酬を与えることを約する契約です(629条)。偶然なる一定の事故を「保険事故」、保険金を支払う者を「保険者」、相手方の支払う報酬を「保険料」、保険者と契約を締結し保険料を支払う者を「保険契約者」、被保険利益の帰属主体として保険事故発生に際して保険金の支払いを受ける者を「被保険者」といいます。

 この損害保険契約は、金銭に見積もることができる利益にかぎり、これをその目的とすることができるとされます(630条)。この、「金銭に見積もることができる利益」のことを被保険利益といい、損害保険契約特有の契約の効力要件であるとされます(「保険法」・山下友信・247頁)。損害保険において、被保険利益が必要とされる趣旨は、利得防止、賭博化防止とともにモラルハザード対策であるとされます(前傾山下247頁、「現代保険・海商法30講(6版)」山野嘉朗・山田泰彦・43頁)。

 この被保険利益の機能としては、直接的なモラルハザード対策だけではなく、保険契約の同一性を区別する基準としての意味を持ちます。すなわち、同一目的物であっても、経済的利益ごとに(たとえば、建物に対する損害保険と、同建物に対する抵当権の損害保険は並立しうる)損害保険契約を締結することが認められていることから、被保険利益こそが、保険契約の同一性を区別することができる基準となるわけです。

 そんな被保険利益の要件は、以下のとおりです(前傾山下249頁を参照)

金銭評価可能性
被保険利益は金銭的に評価可能であることが必要。この評価可能性は、社会通念上客観的に評価が可能であることを意味する。

確定可能性
被保険利益が保険契約の目的となることから、当然に確定する可能性が必要。もっとも、保険契約締結時に確定していることは必ずしも必要ではなく、保険事故発生時までに確定しうるものであることで足りる。

確実性
保険契約成立時に存在せず将来発生する利益でも、被保険利益となりうるが、将来発生する確実性が必要となる。

適法性
被保険利益となるには、適法な利益であることが必要。麻薬を密輸する損害保険などは、この要件により無効となる。

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約款

今回とりあげようと思うのは、「保険法」です。
保険については、大手保険会社の保険金不払いを巡って、耳目を集める事件が目白押しで、興味を持たれているかたも多いのではないでしょうか。

保険というのは、一見地味ですが、生活に密着した制度であり、結構重要です。身近なところでは、「自動車事故を起こした際に、保険会社から保険金が出ない」、などのケースを想定されると、分かりやすいのでしょう。

 では、保険会社の不払い問題はなぜおきたのでしょうか?

 その理由の一つは、保険会社の経営が苦しいということが考えられます。現在、保険会社では、経営体質の安定を図るため、ソルベンシーマージン比率(銀行でいうBISみたいなものです)、などによって、金融庁の監督を受けているわけですが、手っ取り早く安定を図る手段として、保険金の支払いを厳格にするという方法があるのかもしれません。
 ただ、保険は、保険料を収集し、保険事故が起きた際に、保険金を支払う仕組みですから、極端にいえば、保険金を支払うのが保険会社の仕事であるともいえます。従って、いくら、保険金の支払いを厳格にするといっても、要件を満たせば、保険金を支払うというのが、保険会社側の宿命であるといえるでしょう。そのため、不払いの理由は、保険会社の経営が苦しいこと以外にも求めざるを得ません。

 そこで、もうひとつの理由として考えられるのは、約款の複雑さです。
 保険について、法律で定められた規定は、商法の数十条にすぎません。これに対して、保険とは、自動車、生命、傷害、年金……etc、など無数の保険事故を想定して設計することが可能な制度です。従って、保険の多くは、契約自由、具体的には、保険会社の約款によって、定められているのが現状です。
古くは、約款というのは各社横並びで、複雑といっても、限度があったわけですが、それが激変したのは、規制緩和によってです。この規制緩和により、各社間で競争が生じ、さまざまな特約条項を各社がつけるようになりました。その結果、保険会社の商品開発部が付けたさまざまな特約を、保険の販売部門、保険金支払い部門が把握できていないという状況が生じ、それが不払いにつながったという側面があります。

ある保険法の先生がいうには、ある会社の車両保険では、テロによって、怪我を負った場合に保険金が支払われる特約条項があるのだそうです。テロから車両保険という発想は、通常の感覚からはでてこないと思います。こんな状況なので、保険金不払いが起きるのも、ありえる話であったわけです。


 この第二の理由から考えると、保険金不払いを防ぐためには、約款を分かりやすく、シンプルにする必要がありそうです。現在、保険法の改正論議が生じており、再来年の通常国会へ保険法を提出するとの流れが生じていますが、ある種の規定が強行法規すれば、不払い問題への一定の処方箋になるのかもしれません。もっとも、保険会社は、任意規定化する方向でのロビーイングをしているそうですが…(苦笑)。


 そんなこんなの約款問題ですが、最後に法律論として、約款の拘束力について、述べておきましょう(「現代保険・海商法30講(6版)」山野・山田編著・13頁以下を参照しています)。

 約款は、保険会社が一方的に作成するものです(ただし、金融庁長官の認可が必要)。他方、契約は、当事者の意思の合致によってなされるものです。そのため、保険契約を約款に基づいて締結する場合、厳密な意味での意思の合致を求めることは困難となるわけです。ただ、他方で、逐一保険者と保険契約者との間で交渉をして契約書を作成していたのでは、大量、迅速、画一の要請のある保険制度に対応することができなくなってしまいます。そこで、なぜ、当事者の一方が作成する約款に拘束力があるのかという理論的根拠を示す必要が生じてくるわけです。

 一つの考え方は、普通保険約款による旨を記載した申込書に保険契約者が任意調印して保険契約を申し込んだ場合には、たとえ契約当時その約款の内容を知らなかった場合でも、一応これによる意思をもって契約したものと推定されるという見解です(意思推定説といいます)。

 もう一つの考え方は、約款によるという商慣習ないし商慣習法が成立していることに拘束力の根拠を求めます(白地商慣習説といいます)。

 どちらが妥当であるというのは、契約の根本にかかわる問題であり難しい問題です。また、ある意味説明のための議論であるので、どのような見解にたたれるとしても、よいとは思いますが、私の好みは、白地商慣習説ですね。

 このように、約款には拘束力があるわけですが、これも自由放任というわけではありません。ひとつには、行政による約款の認可という形での監督があり、また、保険法が設定されれば、立法による統制も生じてくるでしょう。さらに、司法においても、特約条項を公序良俗違反で無効としたり、特約条項について当事者の合理的意思解釈を行うなどという方法により、実質的に約款の補完がなされています。

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